お気の毒さま、今日から君は俺の妻
双方のフォークの間にパスタの麺が伸びていた。どうやら同じパスタを取ってしまったらしい。
(えっ、どうしたら……!?)
慌てていると、
「スパゲッティ・ウィズ・ミートボール」
と、龍一郎がささやいた。
「え?」
自分が作ったのは生ハムのパスタであって、ミートボールではない。いったいどういうことだろうと澄花は首をかしげる。
「こういうシーンを、小さい頃アニメで見たことがある」
「あ」
そう言われて、ハッとした。
ディズニー映画の“わんわん物語”だ。上流家庭の飼い犬と、野良犬の恋の話だった。
彼らが一皿のミートボールのスパゲッティを食べている背後で、シェフがバンドネオンを弾き歌を歌っている。そしてスパゲッティを端から食べて行ったら、実は同じ一本のパスタを食べていて、最後にキスをする。ロマンチックで美しい名シーンだった。
「というわけで――ここはやはりキスするべきでは?」
「えっ」
龍一郎がかすかに笑う。
「愛する妻にキスをしたいと言うのは、別におかしなことじゃない」
彼は椅子から立ち上がると、フォークを持ったまま澄花にキスをした。