お気の毒さま、今日から君は俺の妻
夫の嫉妬と不穏な空気
時間というのは偉大だ。
最初は戸惑うことばかりだった龍一郎との暮らしも、ひと月もすればだいぶペースがつかめるようになった。
「じゃあすまないが、先に行く」
「はい。龍一郎さんもお気をつけて」
自室のドレッサーでメイクをする澄花のこめかみにキスをすると、スーツ姿の龍一郎は慌てたように部屋を出て、階段を駆け下りて行く。
そんな彼を、澄花は立ち上がって部屋の窓から見送る。
屋敷の前には車が停車しており、運転手がドアを開けて乗り込む寸前、龍一郎は必ず振り返って、二階の澄花を見つめるのだ。
「行ってらっしゃい」
聞こえるはずはないのだが、そう言って手を振ると、龍一郎はかすかに微笑んで、車に乗り込む。
「大丈夫かな……」
思わずそうつぶやいてしまうくらい、最近の龍一郎は忙しかった。
KATSURAGIの副社長はかなりハードらしい。出張もあるし、深夜に帰ってくることもザラだ。おまけに結婚式は完全に暑くなる前にと、七月の上旬に決まった。
結婚式は会社のためにするもので完全に丸投げとはいえ、チェックが必要な部分もあり、目が回る忙しさで、心配だった。