お気の毒さま、今日から君は俺の妻

「いいんだよ、そんなこと」


 天宮はそう言って、それから少し考え込むように目を伏せた。それからすっと顔をあげ、龍一郎がいた廊下を見つめる。


「天宮さん……?」


 澄花もつられたようにそちらの方向を見つめる。だがそこにいるはずの龍一郎の姿がない。


(置いていかれた……?)


 その事実がぐさりと胸に刺さる。
 だが、触らないで、大嫌いとまで言って彼を拒絶したのは自分なのだ。彼がいなくなるのも当然かもしれない。


「龍一郎さん……」


 澄花がつぶやくと、その場の空気が少しだけなんともいえない空気になったが、天宮はくしゃりと髪をかきあげてつぶやいた。


「こんなこと俺が口を出すことじゃないかもしれないけど、大丈夫なの?」
「――天宮さん、あの……」


 澄花は椅子に座り顔を上げる。

 大丈夫かというのは、とうぜん龍一郎の事だろう。

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