お気の毒さま、今日から君は俺の妻

 石橋を渡り、扉の前に出ると、そこには黒塗りの車が停車していた。
 古河が後部座席のドアを開く。


「ありがとう」


 礼を言い、少し緊張しながら、車の中に乗り込もうと中を覗き込んで気が付いた。後部座席にはいるはずの龍一郎の姿がない。


「龍一郎さんは?」


 背後の古河を振り返ると、彼は少し困ったように微笑んだ。


「奥様に付きそうおつもりでしたが、ご実家から急な連絡がございましてそちらに」
「……そう」


 その言葉を聞いて、澄花はまたなんともいえない気持ちになる。


(それって本当なのかな……今、顔を見ても、確かになにを言っていいか確かにわからない……けど)


 ホッとしたような、なにか取り返しのつかない状況になっているような、澄花は不安なまま、車に乗り込んだ。


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