お気の毒さま、今日から君は俺の妻

――――



 治療を終えた澄花は、葛城邸に戻ってまず龍一郎の姿を探した。
 だが家の中は真っ暗だった。


「龍一郎さん?」


 彼の名前を呼びながらどの部屋も探したが、龍一郎はいない。まだ帰ってきていないらしい。


「はぁ……」


 自分の部屋に戻って、ドレッサーの前の椅子に座る。
 左手首はやはりねん挫だった。テーピングを巻いてもらって痛みは感じなくなったが、完全に治るまで二週間ほどかかるという。


(どうしてこんなことになったんだろう……)


 龍一郎と夫婦になって、愛さなくていいという彼の言葉によりかかり、甘やかされ、溺愛され、穏やかな日々を送っていた。
 けれどふと、幸せになって春樹を忘れることが恐ろしくなった。
 そんな戸惑いの中で、こんなことになってしまった。


(どうしたらいいんだろう……全然わからないよ……)


 どっと疲れが襲ってきて、めまいがした。

 メイクを落とさなければとか、着ていたワンピースを脱ぎたいとか、あれこれ考えたが、体が動かない。
 澄花はそのままドレッサーのテーブルに片腕をつき、頭を乗せる。


(少しだけ……少しだけ……目を閉じたい)


 そして目を閉じた瞬間、まるで引きずり込まれるように意識を失っていた。

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