お気の毒さま、今日から君は俺の妻
「なんだかでっかいのが、こっちに手をふりながら、近付いてきてますけど……知り合いです?」
こんな渋谷の雑踏の中で、知り合いと言われてもすぐにはわからない。そもそも澄花の知り合いは基本的に職場がメインなのだ。
「知り合いって……」
澄花は首をかしげながら、珠美が指さした方向を見つめた。
(なにか……大きいものが……近づいてきてる??)
そう、おかしな言い方だが、まさにその通りだった。
大きなかたまりが、ぶんぶんと手を振りながら駆け寄ってきているのだ。
「やっぱり、クマみたいなでっかいのが二足歩行で近づいてきてますよっ! クマなのにっ!」
クマなのに二本足と言いたいのだろうか。
だが彼はクマではない。人間だ。
「いや、タマちゃん待って……あれって……」
澄花は驚いて目を丸くしたまま、逃げ出そうとする珠美の腕をつかんでいた。
「お、おっ、おおおお、お久しぶりです!」
その大きな青年は――いったいどこからダッシュしてきたのだろう。肩で息をしながら、澄花の前に立ち止まり、深々と頭を下げた。