お気の毒さま、今日から君は俺の妻
それでも彼を忘れることはなかった。彼から毎年貰った年賀状には、ちょっとした近況が書いてあった。几帳面そうな字を眺めながら、ただの知り合い程度にもこんなことをするのは、お人好しの人好きらしいなと思っていたのだった。
そんな彼が死んだと聞かされて――とても信じることが出来なかったが、慌てて体一つで帰国して、実家で喪服に着替えタクシーを飛ばし、都内の寺へと向かった。
大きな寺はあいつの人柄を現すかのように弔問客でいっぱいで、当然見知った顔もかなりあったが、声を掛けられるのが煩わしく、わざとそのグループを避けて近づかなかった。
そこで俺は、彼女に出会ったのだ。
故人の親族のひとりなのか、あいつの両親や家族の側にいて、きちんと正座をして、虚空を見つめていた。
彼女は臙脂色のタイのセーラー服姿だった。
肩の下で切りそろえられた髪は今どき珍しいくらい漆黒でまっすぐ。肌は雪よりも白く、唇は赤かった。幼い頃、母が好んで眺めていた、海外の絵本――スノーホワイトの挿絵を思いださせた。