お気の毒さま、今日から君は俺の妻
澄花は持っていた皿とシャンパングラスを目の前のテーブルに置いて、一足先に天空の間を出て行った珠美の背中を追いかけた。
次の瞬間、突然澄花の前を塞ぐように、紺色のスーツ姿の男性が立ちふさがった。
ぶつかると思った澄花は慌てて立ち止まったのだが、向こうはよそ見をしていて、澄花が目に入らなかったのだろう。そのままぶつかってしまった。
「あっ……!」
男はかなり体格がよかった。正面からぶつかったら派手に転んだに違いないのだが、澄花が避けたので、ほんの少し身体が触れただけだ。それでもその瞬間、澄花の着ていた黒いシャツの上に、男が持っていたビールのグラスの中身が飛び散る。
なんと、澄花の髪、そして首から肩のあたりにかけて、ビールでぐっしょりと濡れてしまった。
「ああーっ、すみません!」
ぶつかってきた男が慌てたように声をあげた。大きな声と、かすかなアルコールの臭気が鼻に突く。
「大丈夫ですよ」
澄花は首を振った。