お気の毒さま、今日から君は俺の妻

 その報告書を読みながら、俺は考えた。


(どうせ彼女は死んだ丸山春樹を愛しているのだから、金で買えばいいじゃないか。丸山夫妻のためだと契約結婚を持ちかけて、彼女の存在を買えばいい……愛されようなどと大それたことを思わなければ、俺はきっと幸せになれる……)


 愛されなくてもいい。
 ただ愛せたら、それだけで幸せになれる。

 宝石のように彼女を愛し、愛でて、可愛がって――。

 どうせ彼女は俺に見向きもしないのだから、彼女の気持ちなんかどうでもいい。

 そう、俺が彼女を愛せたら、それでいいと――俺は本気で、そう思っていたのだ。
 友人の葬式の場で最愛の人をうしなって、気が狂わんばかりに泣き叫ぶ彼女を見ていたはずなのに……。

 俺はそんなことを考えたあげく、あの夜――彼女の住むマンションに向かって、車を走らせていた。

 俺はおかしくなってしまったのかもしれない。
 いや、確実におかしくなっていた。

 自分で自分が制御できないくらい彼女に一方的な恋をして、彼女しか見えなかった。

 そして俺は彼女を、自分勝手な方法で、妻にしたのだ。


―――――・・・


「――すまなかった、澄花」
「……」
「いつか話すと言いながら、自分からはずっと言い出せなかった」


 龍一郎はそのまま崩れるようにその場にひざまずく。


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