お気の毒さま、今日から君は俺の妻
申し訳なさそうに頭を下げる様子から、そう悪い人ではなさそうだが、いかんせん動揺しすぎていて、空気が読めなくなっているようだ。
(悪気はなさそうだけど……逃げるしかないか)
「ですから自分で拭けますので、お気になさらず」
澄花は後ずさりながら、そのまま身をひるがえして会場を出て行こうと走り出した。
「あっ、待ってくださいっ!」
だが次の瞬間、背後から腕をつかまれてしまった。
酔っていても運動神経はかなりいいほうらしい。
「きゃあっ!」
驚いた澄花が悲鳴をあげる。向こうは軽くつかんだつもりかもしれないが、体重が倍以上あるのは確実な男に腕をつかまれたら、さすがに恐怖だ。
「わあああっ、すみませんっ!」
するとその悲鳴に驚いた青年が、慌てて手を離してぺこぺこと頭を下げた。
「あのっ、洋服、弁償させてください、本当申し訳ないですっ!」
大きな体をふたつに折って男が頭を下げるので、しだいに騒ぎを聞きつけた周囲が、ザワザワしながらふたりを遠目に囲み始めた。