お気の毒さま、今日から君は俺の妻
「悲鳴が聞こえなかったー?」
「チカンじゃない?」
「やだ、怖い~!」
「違うよ、痴情のもつれだって!」
「だれかー!」
(ち、チカン!? 痴情のもつれ!?)
澄花は相変らず頭を下げ続ける青年の前で、硬直してしまった。
ここに珠美がいてくれたら、きっと澄花を助けてくれたのだろうが、残念ながら珠美の姿はここにはなかった。となると自分でなんとかしなければならない。
(どうしよう……!)
本気で目の前が真っ白になりかけた。
「なんの騒ぎだ」
よく通る声が耳に届く。
その瞬間、ざっと人垣が割れて、光沢のあるストライプのスーツを着た長身の男がふたりの前に近づいてくる。
(誰か来た……?)
澄花は青年の大きな体の後ろに隠れて、前がよく見えなかった。
おそるおそる、青年の影からやってきた人物を見つめる。
「あ……」
一瞬、息を飲んでしまった。状況は大変だというのに言葉を失って見とれてしまった。そのくらい、その男には華があったのだ。