お気の毒さま、今日から君は俺の妻

 和室はかつて琴乃が使っていた部屋だ。
 今はきれいに片付けられているが、調度品などはいくつか置いたままにしてあり、かつてこの屋敷で女王のように振舞っていた琴乃の気配が、まだ残っているような気がした。


「それにしても、なんだかあっという間だったわね……」
「――そうですね」


 澄花もうなずく。

 琴乃が亡くなったのは、龍一郎と澄花が披露宴を挙げた翌日だった。
 会社向けの豪華絢爛な披露宴を終え、くたくたになってホテルに戻り、翌朝、龍一郎とウトウトしているときに、亡くなったという連絡を受け取ったのだ。

 龍一郎の養父は「最後まで振り回されたなぁ……まぁ、看取ることができてよかったよ」と泣き笑いの表情でそんなことを言っていた。
 龍一郎の結婚式を見て、いろいろ思うことがあったらしい。本当にたまたま様子を見に行って、そのまま母親の死を看取ったということだった。

 その場には古河以外にも医者や看護師もいたが、『ああ、やっとあの人が迎えに来てくれた』と、笑って目を閉じたという。


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