お気の毒さま、今日から君は俺の妻

 龍一郎のシンプルな願いは、澄花も同じだった。


(勿論よ。ずっと……ずっと、側にいる。龍一郎さんがおじいちゃんで、私がおばあちゃんになってもずっと、ずっとよ……)


 これから先のことはなにもわからない。だがこの思いは日に日に深く強く、澄花の中で根付き、葉を伸ばしていくのだ。


(この思いを大事に育てよう……)


 そんな思いを込めて、澄花は返事の代わりに、自分から押し付けるようにして龍一郎の唇を奪う。
 その一瞬、龍一郎は肩のあたりをこわばらせる。この時、龍一郎から伝わってくる緊張が、澄花は無性に愛おしくなってしまうのだ。


「まだ私からのキスって効力があるみたい?」


 いたずらっぽくささやくと、龍一郎は苦笑して頬を傾ける。


「ああ……悔しいくらいに。負けられないな」


 そうして柔らかく重なる唇は、次第に熱を帯びていく。

 気が付けば、澄花の耳にあれほどうるさかった蝉の声は、いつの間にか聞こえなくなっていった。

 




【お気の毒さま、今日から君は俺の妻。】完結



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