お気の毒さま、今日から君は俺の妻
『仕事の関係上、披露宴は盛大にホテルでやるが、結婚式は神社でも教会でも構わない』と告げると、彼女はホッとしたように微笑んだ。
ただその微笑みは俺に向けてのものではなく、あくまでも亡き母の形見の白無垢を身にまとえることへの喜びでしかない。残念ながら、彼女が俺に心から微笑むことなど今後もないだろう。
それでも俺は後悔は微塵もしていない。
なぜなら今彼女は、俺の隣に立っているからだ。
「――今後はご神徳のもと、相和し、相敬い、苦楽を共にし、明るく温かい生活を営み、子孫繁栄のために勤め、終生変わらぬことをお誓いいたします。なにとぞ、幾久しくご守護下さいますようお願い申し上げます」
スラスラと誓詞奏上を読み上げる俺は、そこでいったん言葉を切る。
いよいよだ。
軽く息を吸い込み、それからゆっくりと自分の名前を読み上げた。
「夫。葛城龍一郎(かつらぎりゅういちろう)」
次は彼女の番だ。
「――」
一瞬の間が開いた後に、
「……妻。澄花(すみか)」
彼女は震える声を抑えて、己の名を読み、覚悟を決めたように顔を上げた。
その横顔は震えるほど美しく、かわいそうなくらい悲壮感に満ちていて、俺はふと慰めの言葉をかけたくなった。
だが彼女は俺の慰めの言葉など必要とはしていない。七年前と同じように、自分の心の中ですべての決着をつける。心の問題を他人に頼ったりなどしない、そう顔に書いてあった。
そんな彼女だからこそ、俺は彼女に心底惚れてしまったのだ。
心まで手に入らないとわかっていても、どうしても欲しかった。