お気の毒さま、今日から君は俺の妻
氷のような男
正直言って、似合わない顔だった。
(さすがに派手に濡れてるから、驚いたのかな)
まさかの上司の登場に、澄花は軽くため息をついて、バッグからハンカチを取りだし一応水気をおさえる。
とはいえ、ハンカチで押さえたくらいではどうにもならないくらい、澄花の髪もシャツも、ビールでべったりと肌に張り付いている。公共の乗り物では帰るのも他人の目が気になるし、かといってタクシーでも乗車拒否をされてしまうに違いない。
(こういう場はどうするのが正しいんだろう。とりあえずこの場を離れたほうがいい……わよね)
会社に戻れば、繁忙期で会社に泊まり込むこともある、システムエンジニアのために用意されたシャワールームがあるのだ。
澄花も社員なので、一応は使っていいことになっている。量販店で適当に服を買って会社に戻り、帰宅するしかないだろう。
とりあえず澄花はこの場を離れたいと口にしようとしたのだが――。
次の瞬間、澄花の体は、ふわりと浮いていた。