お気の毒さま、今日から君は俺の妻
澄花は柵で囲まれた丸馬場を何周かして、それから林を抜けて、三浦海岸までのんびりとレオを歩ませる。海岸の一部は倶楽部の敷地内なので、馬で駆けることが出来る。
澄花はすうっと息をすい、ゆっくりと吐く。それから手綱を握って砂浜を軽速歩で進む。馬の脚運びに合わせて、立つ、座るのリズムを合わせるのだ。それから駆歩で砂浜を走る。
もともと運動神経は悪いほうではないし、動物も好きだ。そして何より、目線が高く、風が気持ちいのがたまらない。
澄花はすっかり乗馬の虜になっていた。
しばらく海岸を走らせていると、急激に喉が渇いてきた。
澄花は砂浜に張り出した木の下で馬を降りて、リュックに入れていたペットボトルを取りだし、ひとくち口に含む。
「おいしい……」
じんわりとしみこむ水分に目を細めていると、遠くからサラブレッドが走ってくるのが見えた。
「龍一郎さん……?」
長身の男性が乗っているのはわかるが、よく見えない。ペットボトルを持ったままじっとそれを眺めていたら、あし毛のサラブレッドは澄花の手前で止まり、馬の上からひらりと男性が降りてきた。
「こんにちは」