お気の毒さま、今日から君は俺の妻

 にこやかに挨拶をしながら、降りてきた男性には一度だけ篠崎に紹介されて、見覚えがあった。


(確かエール化粧品の御曹司だったはず……)


 エール化粧品は、国内有数の化粧品会社だ。長身で、灰色の目をしたとんでもない美青年で華がある。龍一郎とは違った意味で、一目見れば忘れられない。そんな雰囲気の持ち主だった。


「こんにちは」


 澄花もにっこりと笑って、会釈する。

 独身の頃は男性を警戒していた澄花だが、すでに自分は人妻であり、なおかつここは乗馬倶楽部内なので、身構えることもない。


「今日はおひとりですか」
「いえ、夫が遅れて来る予定ですが」
「ふむ……なるほど」


 それを聞いて御曹司はどこか楽し気ににやりと笑う。


「なにか?」


 首をかしげると、彼は一歩だけ澄花に歩み寄って、まるでいたずらっ子のように微笑んだ。


「もしよろしかったら、助けていただけませんか?」
「助ける?」


 澄花の目が点になった。


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