お気の毒さま、今日から君は俺の妻

 壁にかかっている時計は、午前十一時を指している。一時間あるといっても、この量だ。手早くしなければランチの時間が遅れてしまうだろう。


「さて……まずゆで卵……」


 卵をゆで、その間に野菜を洗って切る。それからパンにバターを塗っておく。冷蔵庫に上等なハムやソーセージが入っている。ボイルするにしても焼くにしても、すべて同時進行でやらなければならない。


(さて、どうやっつけていこうかな?)


 頭の中で進行表を描き、少しワクワクしながら着ていたシャツの袖をまくり手を洗っていると、基が

「エプロンを持ってきました」

 と姿を現した。


「ありがとうございます」


 澄花はネイビーのエプロンを受け取って、カットソーとデニムの上につけると、後ろを手早く結ぶ。

 見れば基も手伝う気なのか、まじめな顔をしてエプロンをつけている。
 彫刻のように彫りの深い、美青年のエプロン姿だ。


(似合……うような、似合わないような……?)


 しかも後ろ手に回して、神妙な面持ちで蝶々結びをしている。四苦八苦している感じが伝わってきたが、さすがに手を出すのもはばかられる。見ないふりをしつつ、冷蔵庫を開けた。


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