お気の毒さま、今日から君は俺の妻

「わ……っ」


 よろめいた澄花だが、とうぜん龍一郎がしっかりと抱きとめたので、転ぶことはなかった。


(どうしたの急に? 人もいるのに……)


 まるで長い間離れ離れにでもなっていたような抱擁に、澄花の頬に熱が集まる。


「ちょっと……人前ですよ……」


 澄花は照れながら龍一郎の胸を押し返すが、龍一郎はそのまま、

「これで失礼する」

 と、一言だけ告げて、強引に澄花を連れてキッチンを出て行く。


「えっ、龍一郎さんっ……? まだ片付けが全部終わってないんだけど……!」


 澄花はアワアワしながら振り返る。


「あっ、不二さん、篠崎さん、すみません、失礼します……!」


 そして、目を丸くしている篠崎と、なぜかにこやかに手を振っている基に頭を下げ、半ば無理やり車に乗せられたのだった。


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(――そうよ。やっぱり怒られるようなことは一切なかったわ)


 
 あれやこれやと思いだし、助手席の澄花は、車の窓の外に目をやりながら、唇をかみしめる。

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