お気の毒さま、今日から君は俺の妻

「龍一郎さん」


 澄花ははっきりと夫の名前を口にした。


「さっきのアレはどういうことなの?」


 結局、龍一郎は澄花を車に押し込んでから、ずっと無言だった。
 どう考えても、あんな帰り方はない。不二基にも篠崎にも失礼な態度だった。

 だがその理由を龍一郎は言葉にしない。常日頃、夫はそういう人だからと思ってはいたが、時間が経てばたつほど、ジワジワと怒りがこみ上げてくる。


「私、お手伝いしてはいけなかったの?」
「――澄花」
「たいしたことじゃないって思ってたけど、そうじゃないの? 私が知らないルールがあるの? それとも私がなにか取り返しのつかないようなミスをしたの?」


 一瞬貯め込んだ分、ポンポンと言葉が口をついて出る。

 だが隣でハンドルを握る龍一郎は、一度澄花の名前を呼んだだけで、そのあとは苦虫をかみつぶしたように渋い表情で前を向いている。


「――」


「なにも教えてくれないのね」


 澄花ははぁ、とため息を漏らす。


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