お気の毒さま、今日から君は俺の妻
「え……?」
なにが起こったのかわからなかった。だがすぐ目の前に椿の花があり、その上に、どこか人を寄せ付けないような氷の美貌を見て、息が止まりそうになった。
(わ、わ、わ、私、抱き上げられてる!?)
そう、澄花は男に抱き上げられていた。いわゆるお姫様だっこだ。
膝裏と腰をささえられ、そのままスタスタと男は会場の外へと向かっていく。
「えっ、あのっ、ちょっ……!」
いつも他人からは落ち着いて見られる澄花だが、この場ではさすがに焦って言葉が出ない。完全に気が動転していた。
「すぐに着替えを用意させる。だがまずシャワーを浴びたほうがいいだろう」
一方、澄花を抱いたままの男は真顔でそう言うと、そのままホールから廊下に出て、ホテルマンのグループを呼び止める。
「君、私の部屋まで一緒に付いてきてくれ」
「えっ、あ、葛城様! かしこまりました」
声を掛けられたのは制服姿の女性だった。
彼女は一瞬驚いたが、すぐにうなずき、持っていたからのグラスを一緒にいた男性給仕に手渡すと、最寄りのエレベーターのドアを開け、先に乗り込んだ。