お気の毒さま、今日から君は俺の妻
それから取り出したキーを給仕が受け取り、部屋のドアが開けられる。
入ってみて気が付いたが、部屋はスイートルームだった。まず目の前のガラス張りの窓は高層階ならではの美しい夜景が広がっていて、広い部屋の中央には赤と白のソファーセットがふたつ並んでいた。右手にはバスルームがあり、左手にドアがあるので、あちらがベッドルームなのだろう。
そこでようやく葛城は澄花を床に下ろし、一緒に部屋までついてきた給仕に向き合った。
「彼女の着替えがいる」
「はい。専門スタッフを連れてすぐにお持ちします」
スタッフはこくりとうなずいて、そのまま部屋を出て行った。
「――あの」
そこでようやく、葛城は真正面から澄花に向き直った。
「いろいろお世話になって、すみません」
軽く頭を下げると、頭上で息を飲む気配があった。
「いや……もとはと言えば、うちの従業員がしたことだ……が」
葛城はシャープなあごのあたりに手をやって、一瞬考え込むような仕草をしたが、ゆっくりと首を振った。