お気の毒さま、今日から君は俺の妻

(私の部屋のお風呂だって、そう悪くはないけど……)


 少しだけ見栄をはりながらカーテンを閉め、脱衣所で服を脱ぎ裸になった。
 思い切ってシャワーのノズルを開いて頭からお湯を受ける。じわじわと温度を高くしながら、ぎゅっと目をつぶった。


(あの人……私の事を知ってるって言った……)


 もしかして仕事をしている中で、どこかで会ったことがあるのだろうか。


(でも、営業ならまだしも、私は総務だし)


 髪を洗い、それから体を温めるためにバスタブに体を沈めると、意識がぼんやりし始める。


(疲れた……すでにいっぱいいっぱいかも……)


「はぁ……」


 気が付けばまたため息が漏れていた。

 澄花の世界は恐ろしく狭い。
 基本的には会社と家の往復で、他人と時間や経験を共有できるような趣味も持たず、現在友人と呼べるのは珠美くらいだ。その中で、KATSURAGIの御曹司である龍一郎と関わったことがあるのなら、きっと覚えているはずだ。
 なので少なくとも社会人になってから数年の間に、葛城龍一郎に出会ったことはないという結論になる。

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