お気の毒さま、今日から君は俺の妻
(じゃあ、いつなの? 大学生の時……?)
祖父母が残してくれた遺産と奨学金で、澄花は都内の女子大の文学部を卒業している。そしてゼミの教授の推薦でタカミネコミュニケーションズに入社したのだが、大学四年間も、サークルにも参加せずひたすら本ばかり読んでいたので、龍一郎との接点は当然、なにも思いつかなかった。
目を閉じると意識があいまいになる。
ふと、懐かしい気配が心を包んでいた。
澄花は十歳よりも前の記憶があいまいだ。
幼いころ、冬の夜。祖父母の家から帰宅途中、父の運転する車で事故にあった。トラックの居眠り運転に巻き込まれたのだ。生き残ったのは後部座席でうとうとと眠っていた澄花だけ。両親を一度に失ったショックで、澄花は記憶のほとんどを失った。
澄花は祖父母のもとに引き取られたが、高齢の彼らにすべてをカバーできるわけもなく、実際澄花をなにかと気にかけ、手助けしてくれたのは、隣町に住む両親の親友夫婦とその息子だった。
澄花の十歳年上の彼は、春樹(はるき)といった。
当時高校生だった彼は優しく太陽のように温かい少年だった。