お気の毒さま、今日から君は俺の妻
澄花は彼をハルちゃんと呼び、実の兄のように慕い、そして成長するにつれ彼をひとりの男性として見るようになった。自分に声を掛けてくるクラスメイトの男子など、まったく興味がなかった。
そして高校生になった春、澄花は春樹に積年の思いをぶつけた。
春樹にとって、澄花は特別な女の子ではあったけれど、女として見ていたわけではなかった。当然断られたが、澄花は何度拒まれても、あきらめなかった。
一年間、春樹を追いかけまわし、結局春樹を根負けさせて、晴れて恋人同士になったのだ。
『驚異の粘り腰に負けたんだよ』
春樹はそう言って、よく笑ったものだった。
「ハルちゃん……」
湯船の縁に頭を乗せたまま、澄花は彼の名を呼ぶ。
名前を呼ぶと、その時は幸せな気持ちに包まれる。
柔らかいくせ毛に、笑うと下がる目じり。いつもニコニコしていて、彼が怒ったところなど一度も見たことがなかった。
その名前の通り、春のひだまりの中で輝く大樹のような人だった。