お気の毒さま、今日から君は俺の妻
「栫様、お着替えをここに置いておきます」
先ほど来た女性スタッフの声がして、バスタブでうとうとしていた澄花は、目を覚ました。
(ああ、こっちが現実だった)
「……はい。ありがとうございます」
返事をしたあと、バスローブを裸の上にまといドレッサーの前の椅子に座った。
とりあえず髪を乾かさなければ、着替えられない。備え付けのドライヤーを使っていると、しばらくしてドアがノックされた。
「はい」
ドライヤーを止めて返事をする。
てっきりさっきの女性スタッフだと思ったのだが、ドアがガチャリと開いて、姿を現したのは、なんと龍一郎だった。
「っ……」
驚いて、澄花は息を飲んだ。慌ててバスローブの前を掻き合わせる。
「いっ、いくらなんでも非常識ではないですかっ?」
思わず強い口調になったが、龍一郎は澄花から非難めいた目を向けられても特に動揺した様子もなく、無表情だった。
「ノックはしたが」
(そ、それは……さっきの女性だと思ったからで……!)
澄花は心の中で、言い訳をつぶやいたが、ノックをして返事があったから入ったと言われれば、澄花はもう強く言い返せない。