お気の毒さま、今日から君は俺の妻
澄花はブランドにはまったく興味がないのでわからないが、その着心地の良さは圧倒的だった。まるで体に吸いつくようなラインとカットで身に着けているだけで、少しいい女になったような錯覚を覚える。
「きっと自宅では洗えないわよね……」
クリーニングもデラックス仕様に違いない。
いったいいくらかかるのだろうかと気になりながら、ソファに戻り、自分の体の上に重ねられた毛布をたたみ、寝室に戻した。
「とりあえずもう少し待ってみよう……」
特に待てと言われたわけでもないし、このまま出て行っても問題ないのかもしれないが、せめて一言礼くらいは言いたかった。
とりあえずソファに座って行儀良く、澄花は龍一郎の帰りを待っていたが、十分経っても、二十分経っても、彼が戻る気配はなかった。
さすがにどうしたらいいものかとジレジレしていたところで、静かな部屋で、バイブレーションの音が響く。
足元に置かれていた澄花のバッグの中で、スマホが鳴っているようだ。
「あっ……!」
その瞬間、澄花は跳ねるようにバッグに飛びつくと、震えているスマホを取り出して電話に出る。
「もしもしっ……!」
【あーっ、もう先輩っ~! 今どこですかぁ?】
案の定、電話の主は珠美だった。