お気の毒さま、今日から君は俺の妻
「――そう、ね」
本当は、この服を用意してくれたのは葛城の御曹司である葛城龍一郎で、なおかつ彼は澄花のことを知っている様子だったのだが、澄花としてはやはり、今日の事のことは忘れてしまいたいと思う出来事だった。
(あんな暗い目をする男の人、初めて見たわ……太陽みたいだったハルちゃんとは全然違う……)
冷たい眼差し。暗い目の色。それなのに電話に出たときはまるで仮面でも張り付けたかのような美しい笑顔になった。あの時の表情の変化を見ると、澄花は妙に落ち着かない気分になった。
だが――確かに強烈な存在感があったが、葛城龍一郎と会うことは二度とないはずだ。
(きっと私の事を知っているというのも、なにかの勘違いだ。そうに決まってる……)
澄花は後部座席の隣で、「でもあのクマに似た人、ちょっとタイプでした~天宮さんとは全然違うけど~」とはしゃぐ珠美に「えっ、本当?」と相槌を打ちつつ、車窓の外に見えるビルの明かりをぼんやりと眺めていた。