お気の毒さま、今日から君は俺の妻
私に値段は付きますか?
翌週、澄花は仕事帰りにバスに乗って、春樹の両親の家へと向かった。バッグの中には、数日前に珠美がくれたミニアルバムが入っている。
「おばさん、こんばんは」
「いらっしゃい!」
玄関のチャイムを押して中に入ると、さっそく春樹の母である尚美(なおみ)が迎えてくれた。エプロン姿の彼女は、笑うと目じりが下がる。そこに春樹を感じて、澄花は懐かしさに胸が熱くなってしまう。
「おじさんは、今日はどうしたの?」
思わず泣きそうになるのを必死にこらえて、澄花はリビングの中を見回した。
リビングには、尚美の夫である俊樹(としき)の姿がない。
月に一度、春樹の月命日に合わせてやってくる澄花の訪問を、ふたりはいつも楽しみにしてくれていて、少しやせ気味の澄花に向かって、『あれを食べろ、これを食べろ』と、いつも過剰な接待をしてくれるのだ。来るとわかっている今日に限って姿がないのは少し違和感があった。