お気の毒さま、今日から君は俺の妻
帰りのバスの中で、澄花はぼんやりと窓の外を眺めていた。
(家族だから……なにかできると思ったのに)
尚美から聞いた話では、ここ数年の不況の影響で、工場は倒産の危機にさらされているらしい。常に自転車操業で、仮に銀行の融資が止まってしまえばすぐに倒産してしまう恐れがあるのだとか。
なのでここ連日、俊樹は融資のお願いに回って帰りが遅いということだった。
『こんな話を聞かせてごめんね。おじさんもね、澄花ちゃんにすごく会いたがってたんだけど……』
尚美は気丈にも微笑んで、そう言ってくれたが、澄花の胸は鋭いナイフでえぐられるような痛みを覚えた。
(融資さえあれば……銀行がお金さえ貸してくれれば……)
だが融資がないと倒産してしまうような会社に、いったいどんな銀行が融資をしてくれるのだろうか。お金を返済してくれる見通しがない会社に融資がされるはずがない。
なにか力になりたいと常々思っているのに、自分には何もできない。
(なんて無力なの……!)
膝に乗せたお惣菜が入った紙袋がずっしりと重い。とっさにふたりの存在を重ねて、紙袋を抱きかかえて唇をかみしめていたーー。