お気の毒さま、今日から君は俺の妻

「え……？」


　地べたに座り込んだ澄花の前に立ったのは、なんと葛城龍一郎だった。

　心底嫌なものを見たといわんばかりに、そしてどこか苦しそうに、冷たい眼差しで澄花を見下ろしている。


「――死にたいのか」


　初対面の時と同様、人を動かす力のある迫力のある声だった。


「あ……いえ……」


　澄花は首を振り、それからなんとか自力で立ち上がった。
　どうしてこの男がここにいるのか、たまたまなのだろうか、それにしても偶然とは重なるものだと思いながら、小さく頭を下げる。


「えっと……あの、すみませんでした」
「なにがだ」
「えっ？」
「身に覚えがない」


　相変わらずの無表情で、龍一郎は澄花を見つめている。


「ああ……その、ご挨拶もなく勝手に帰ってしまったのと……こんな形で車を止めさせてしまったことの、二点においての謝罪です」
「なるほど」


　納得したのか、していないのかよくわからないが、龍一郎はそのまま背後を一度だけ振り返って、それから後部座席のドアを大きく開ける。