お気の毒さま、今日から君は俺の妻
「起きようかな……」
澄花はベッドから体を起こすと、壁に掛けてあった毛糸のカーディガンを薄いピンクのパジャマの上に羽織り、いそいそとキッチンに向かって、ケトルをガスにかけた。そして紅茶のティーバッグをお気に入りのうさぎのマグカップに入れ、湧いたばかりの熱湯を注ぐ。
「ふーっ……」
立ち上がる湯気に息を吹きかけながらベッドに腰を下ろし時間をかけて紅茶を飲む。
朝はまだ寒い。一瞬迷ったが、エアコンのスイッチを入れることにした。1LDKのマンションのしびれるような冷たい空気が、じんわりとあたたかくなっていく。
「よしっ……」
紅茶を飲み終え、体が温まったところで、澄花は部屋の中の鉢植えや、ベランダに置いてあるプランターに水をやり始める。
部屋の中は緑の植物でいっぱいだが、植物にくわしいわけではなく、あくまでも趣味としてかわいがっていた。
水をやり、体が目覚めたところで、身支度を整えるためにクローゼットを開ける。
二十五歳の女性のクローゼットの中身としては、かなり異質かもしれない。大きくないクローゼットの中身は、黒一色で染まっている。