お気の毒さま、今日から君は俺の妻
「適当にそのあたりを流してくれ」
龍一郎は澄花の不満の声を軽く聞き流して、白いシャツと黒いスーツを着た運転手に静かに告げる。
「かしこまりました」
忠実そうな年配の運転手は小さく頭を下げ、まっすぐに前を向いた。
それからどういう仕組みになっているのか、澄花の目の前で、運転席と後部座席の間が濃いグレーに色を変える。
「これ、なんですか?」
驚いて顔を近づける澄花に、龍一郎が説明した。
「間にガラス板があって、スイッチ一つで視界だけでなく声も遮断される。この車は商談用にも使っているから、こういう機能がついている」
「あ……そう、なんですか」
まるで映画のようだと思いながらも、澄花は余計緊張してしまった。
(別に私と商談したいってわけじゃないでしょうに……)
走り出した車はすいすいとスピードを上げ始める。あっという間に、我が家が遠ざかってしまった。
(本当、信じられないわ……)