お気の毒さま、今日から君は俺の妻

「お金がいるんです」


 震える声でそう告げ、微笑みを浮かべると同時に、じんわりと澄花の目が潤んだ。
 お金で自分を売るなど、最低だ。いったい人をなんだと思っているのだと、情けなく思う。そしてなにより龍一郎にも失礼な話だ。
 だが澄花は自分以外なにも持たない。
 唯一自由になるのが自分なら、それを担保にするしかない。


(軽蔑されたっていい。お金が必要なのは本当なんだから)


 澄花は必死に涙をのみ込むと、それから黙って自分を見つめている龍一郎を黙って見つめる。


(お願い……なにか言って)


 なんならこのまま車から降ろされても構わなかった。今後のことを思えば、頭のおかしい女だと、馬鹿にされたほうが案外マシかもしれない。

 長い沈黙が流れる。


(ああ……やっぱり冗談だと言って車から降ろしてもらおうか……)


 やはり馬鹿なことを言ってしまったと、自己嫌悪でそう口にしかけた瞬間、


「いくらでも出そう」
「え……」
「君を言い値で買おう」


 龍一郎は、しごくまじめな表情で、そう言い放った。

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