お気の毒さま、今日から君は俺の妻
聞き間違いかと思った。
だが相変わらず龍一郎は目の前にいて、何度まばたきをしても、消えたりはしなかった。
「言い値って……」
「知っている」
「え?」
「育ての親のような彼ら――丸山夫妻を助けたいのだろう」
「あっ……」
丸山は俊樹と尚美の名字である。
だがなぜ彼がそのことを知っているのか。これで三度目の“知っている”だが、澄花はそんなことは頭からふっとんでしまった。
「とりあえず銀行の融資の件は任せなさい。悪いようにはしない」
「……どうやって?」
「仕事の内容は悪くないのに、どうも資金繰りがうまくないのが問題だ。そのあたりを解消しなければ、たとえ今回の資金難を乗り越えたところで、数年でまた同じことの繰り返しだ。だからうちの系列会社から人をやる。健全な経営になるまで指導させよう」
淡々と、けれど心地よい低い声が車内に響く。
具体的な提案を聞かされ、どうやら葛城龍一郎は本気で助けてくれるつもりのようだ。