お気の毒さま、今日から君は俺の妻
「あの」
「来月……そうだな。とりあえず四月に身内向けの結婚式を挙げることにしょう。仕事の関係は後日やればいい」
「ちょっ……ちょっと待ってくださいっ!」
澄花は慌てて首を振った。
龍一郎がなにを言っているのか、さっぱりわからなかった。
「結婚って……!?」
「言っただろう。君が欲しいと」
「それは確かに聞きましたけど」
「欲しいというのは、そういうことだ」
そして龍一郎は不敵に笑った。
「君が約束を守れば、私も約束を守る」
ということは、突然ここで申し込まれた結婚を承諾しなければ、丸山夫妻は助けてもらえないということになる。
(でも……結婚……って)
一度抱かれて終わりだと思った自分が世間知らずなのは仕方ない。だが結婚はふたりでするものだ。親類縁者、家族も巻き込む。そうなれば失うものが大きすぎるのはどう考えても龍一郎のはずだ。
「なにを言っているの……? そんなの変よ、おかしいわ……」
信じられない気持ちでいっぱいになりながら、澄花は唇を震わせたが――。
龍一郎は至極冷静な眼差しをしていた。
そして言い聞かせるようにささやいたのだ。
「おかしい? そうだな……だがそもそも君は私を愛する必要などない。ただ結婚さえしてくれたらいい」
と――。