お気の毒さま、今日から君は俺の妻


――――――


「さて、そろそろ戻ろうか」


 俊樹がよっこいしょとソファから立ち上がる。


「幸せになるんだよ」
「そうだよ、おじさんもおばさんも、それが一番嬉しいんだからね」
「うん、ありがとう……」


(おじさんもおばさんも、本気で私の幸せを祈ってくれている……)


 涙目になりながら何度も澄花の手を握り、そして抱きしめるふたりをドアを開けて見送っていると――

「お義父さん、お義母さん」

 グレーのタキシード姿の龍一郎が姿を現した。


「ああ、龍一郎君!」


 俊樹はまた笑顔になって、背の高い龍一郎を見上げた。


「今、部屋に戻るところだよ。澄花のことを本当に頼むよ、とても優しくていい子なんだ」
「もう、あなたったら。それ何度目のセリフ?」


 尚美がいさめるが、龍一郎はにっこりと笑って首を横に振った。


「当然です。私には過ぎた女性です。世界で一番、大事にします」


(また、あの笑顔……)


 隣に立っていた澄花は、ドキッとしながら龍一郎を見上げる。
 タキシード姿はまるでモデルのように美しかったし、その笑顔も礼儀正しく、誰が見ても品行方正な御曹司だ。だが澄花は彼のこの笑顔が、外に向けた仮面であり、偽物だと知っている。
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