お気の毒さま、今日から君は俺の妻

 龍一郎は至極まじめな表情でそう言い放つと、腕時計に目を落とす。


「私も着替えてくる。食事にしよう」
「あ……はい。わかりました」


 澄花はぎくしゃくとうなずきながらリビングルームのソファへと移動し、腰を下ろす。


(食事はいいとして、その後どうしよう……)


 澄花が気になるのは、その後だ。


(私、本当にハルちゃんしか知らないから、この年で経験値が低すぎるわ……今日、その……初夜……なのよね)


 想像しただけで気が遠くなった。

 春樹との恋は一年未満だ。しかも女子高生だった澄花を春樹はとても大事にしてくれて、キスはしたが、決定的な意味で、体の経験はなかった。

 そう、なかったのだ。
 時が経てばいずれそうなったに違いないが……。


(二十五にもなって経験がないなんて、さすがに気づいてないわよね……どうしよう。だけど今さら言えない……)


 両手で顔を覆い、打ちひしがれていると――。

「待たせた」

 スーツ姿の龍一郎が姿を現した。

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