嫌い。だけど好き。
コンコン
「お嬢様・・・。旦那様と奥様が お呼びです」
50代のメイド・・・いや、結愛の専属メイドが結愛の部屋の外で言った。

「はい・・・。」
平静を装って部屋を出る結愛だが、今までベットの上に倒れ込んでいた。
勉強よりも難しい、人間関係。
今日、『可愛い』と言ってきた男性は・・・
私を遊んでいるのか?
それとも本当に思ったのか・・・。
・・・もう、考えるのは止めよう。期待するだけ無駄よね。

そんな事を考えてるうちに
お父様と お母様がいる応接室に着いた。
「結愛・・・そこに座りなさい」
「・・・はい。」
お父様の声で これも何百万円したのか分からないようなソファに座った。
「お前の婚約者を連れてきたんだ
さぁ、入りなさい」
お父様が私の入った扉と違う扉に声をかけた。ガチャっと音を立てて開く扉。

「・・・失礼します」
入ってきた男性は
メガネをかけ、スーツなどはビシッと着ていた。少し笑を浮かべ、「こんばんは」と
結愛に会釈する。

「こちら・・・有栖川 高嶺(アリスガワ タカネ)君。
お前の婚約者だ・・・。
頭も良く、全国模試でも上位に入るほどだ。結愛、挨拶しなさい。」

私は ボーッとしていた。
私が・・・婚約?この男性と?結婚するの?
いや・・・一条家に生まれた身として、自分の好きな人と結婚できるなんて思っちゃいけないこと。
私はすぐに笑みを浮かべ立ち上がった。

「こんばんは。一条結愛です。」
ニコッと微笑む。この微笑み方も・・・小さい頃から教えこまれた。
パーティや披露会に出席する時、どんな相手にも好印象を持ってもらえるよう、偽りの笑顔を見せるようになった。
本当に笑ったり笑みを自然に浮かばせた事なんて・・・小さい頃から 1回もない。

「結愛さん・・・とても可愛い名前ですね」

「ありがとうございます。・・・とても気に入っているんですよ。
お父様とお母様につけてもらいましたから」トークの仕方も勉強した。
どうしたら相手に良い印象を残せるのか。

私は・・・一条を最優先にして生きてきたんだ。お父様やお母様は私の事なんてどうでもいい。私と“結婚する人”を重視するのだ。・・・現にこうやって、2ヶ月ぶりに会っても優しい声などかけてくれない。
私は・・・一条家の 見せ物なんだから・・・。
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