この恋が実るなら
心の奥底に、しまい込んでいた気持ちの箱の蓋が、カタっと開きそうになるのを、再び強い気持ちで押し戻した。
「そっか、でかした!山口さん!」
小声で返しながら、大きな笑顔を向けた。
午後の仕事は滞りなく終わって、定時にオフィスを後にした。
ちょっと、胸が苦しい。
一人で歩く帰り道。
すれ違う人の波の中に、寄り添って歩く恋人達をいくつも見つけ、顔を背ける。
下を向いて駅に向かっていたら、正面から近づいて来た革靴が私の前でピタリと止まった。
それ以上前に進めなくて、顔を上げると…。
「やぁ、久しぶり。寧々の職場の、えーっと、実花ちゃん、だよね。」
そこには、優しく微笑みかける吉川さんが立っている。
ハッとして、突然襲ってきた罪悪感に、後ずさった。
私は、吉川さんという人がいるのに、寧々さんに山口さんをけしかけてるんだ。
吉川さんは、そんな事知る由もない。
「実花ちゃん、今時間ないかな?ちょっと聞きたいことがあるんだけど…。」
「え…、聞きたい事って…?」
「道端じゃなんだから、ちょっとどっか入ろうか。夕飯まだなら、食事でもいいけど。」
「えっと、お腹は空いてないので…コーヒーくらいでいいですか?」
こんな罪悪感を背負いながら、この人と食事なんてできない。