お見合い愛執婚~俺様御曹司に甘くとらわれました~
「二百十六円です」
そう無表情で俺に告げた。
こいつはいつも愛想がない。
淡々と必要な作業だけして余分なものがない。
ロボットみてぇだな。
整った顔だけに表情がないとすごく無機質だ。
その時初めて名札を見た。ブラスチックの小さな板に『藤野』と書かれていた。
千円出しておつりを渡された。それを財布に入れた時、
「これ」
レシートと一緒に絆創膏を差し出してきた。
「は?」
俺は意味がわからず絆創膏と藤野という店員を交互に見る。
藤野は眉一つ動かさないまま、
「私、指がよく逆剥けするんで常備してるんです」
と俺を真っすぐ見て言った。
いやいや、違うよ。
なんでお前が絆創膏を常備してんのか訊いたんじゃねぇよ。
色々ツッコんでしまいそうになっていたら、藤野は軽く自分の唇の端を指でノックした。
「早く治さないとアンパン食べる時に沁みますよ」
その時、首を傾げる姿が少女が心配するような仕草だった。