お見合い愛執婚~俺様御曹司に甘くとらわれました~
「すみません、仕事終わりに直接来たもので」
「いいえ、こちらこそお忙しいのにありがとうございます」
無理してまで私と会う意味がわからないけど。
頭を下げながらも腑に落ちなくて、顔が見えないことをいいことに思いっきり眉を寄せた。
智哉は革張りの座席に背を預けて優美に微笑んだ。
「何が食べたいですか?」
「な、何でも」
「じゃあ、苦手なものとか」
「極端に辛すぎるものとかはちょっと」
「わかりました」
スマートだ。
今のところ欠点が見えない。
だからこそ、不気味だ。
どうしてこの人がしがない呉服屋の娘と見合いをしたのか。
まだ若い。結婚に焦ってもいないだろう。
それなのに、なぜまた会おうと思ったのか。
ますます謎だ。
少なくとも金絡みではない。だって、元々金持ちだから。
何か違和感があるんだよね。
今日だけじゃなくて、出会った時からだけど、笑顔が嘘くさいのだ。
作り笑顔にしても、感情が全く読めない。
澄んだ瞳の中を覗けば覗くほど鏡のように反射して結局何も見えない。
エスコートがいくらうまくても、それが居心地の悪い原因だった。