お見合い愛執婚~俺様御曹司に甘くとらわれました~
彼は私が言い出したことは全く驚きも戸惑いもなかったようだ。
むしろ、それに驚いている私に苦笑した。
「あなたの態度を見ていればわかりますよ。兄貴と間違えるくらいだからほとんど不意打ちであの場に連れてこられたんでしょ?」
そうだ。断ってほしいから不愛想な態度で接していた。
それをわかっていながら、智哉は断らなかった。
「どうして?そこまでわかっていて断らないんですか?自分で言うのもなんですけど、失礼だったでしょ?」
「そうですね」
智哉はそこで言葉を切って何やら思案した。
どうしたのかと問う前に彼がゆっくりと息を吐いて肩を大きく下げた。
「まぁ、お互い猫を被っていても仕方ないから、もうぶっちゃけるけど、俺もいろいろあるんだよな」
急に口調が崩れる。
あ、そうか。
全てビジネス対応だったのだ。
だから、感情を読ませるつもりもないし、相手を知ろうとすることもない。
手の内を見せずして、相手を籠絡しよう。
普通なら彼の美しい容姿に見入って気づかないかもしれないけど、恋愛を敬遠している私はその空気に本能的に警戒していた。
「ばあさんが決めたことはうちは絶対なんだ。じいさんも婿養子で若くで死んで、ばあさんが会社を引き継いで大きくして。親父も婿養子だから、もう頭上がんないの。だから、俺もばあさんが決めたことはなるべくイエスで返さないとまずいんだよ。俺が兄貴を差し置いて、次期社長になるためには」
なるほど。ようやく全貌が掴めた。
全ての謎が解けた。解けたが厄介だ。
男っていうのは権力が絡むと自己中心的以外の何物でもなくなるのは、達彦で思い知っている。