お見合い愛執婚~俺様御曹司に甘くとらわれました~
「それにそっちからは断れないんじゃねぇの?」
すっかり素を出した智哉はネクタイを緩めた。
きちりと隙のなかったスーツが崩れていく様は彼の本性も見えてくるようだ。
「そっちの母親も気にしてるだろ?『ご近所付き合い』とか」
「う……」
図星を突かれて閉口する。
女性から断るほうが波風が立たないはずなのに、私の場合は家柄がある。
大企業の葉山家との縁談を小さな呉服屋が跳ねのけるだけの根性はない。
お得意様には葉山の仕事関係者もいるはずだ。
「家が近くて、ばあさん同士が仲いいのも考えものだな」
本当に。
簡単に解決できそうだったのに、今では全てが絡み合って困難すぎる。
「うちのばあさんが諦めたら流れるかもな」
「あ、諦めてくれるの?」
「さぁ、わからねぇけど。諦めなかったらこのまま結婚だな」
あははと完璧、他人事のように笑っている。
「いやいや、笑い事じゃな……」
「まぁそっちも俺と結婚できていいじゃん?順調に行けば、めでたく社長夫人だよ」
これも明快に言われて、私の頭の中でブチッと音がした。
こいつ!人をなめてる!
思わず湯のみに手をかけた時、
「ちなみにこのスーツ、オーダーメイドでかなり高いから」
真顔で放たれた台詞に動きが止まる。
お茶を浴びせてやろうとしたけれど、そんなことを聞いたら勇気がなくなる。