お見合い愛執婚~俺様御曹司に甘くとらわれました~
「日曜日なのにご多忙で大変ですわ」
「お母様は早くに亡くなられてしまって。本当ならお父様が今日ご出席されたいとおっしゃっていたんですけど、急な出張で日本にいらっしゃらなくて」
「まぁ、どちらへ?」
延々と母と長田さんの間で世間話が繰り広げられる。主役だというのに蚊帳の外だ。
まぁ、いいけど。
どっちみちお見合いなんて受ける気がなかった。
せっかくだし、ご飯でも食べに行こうと車に乗せられて、連れてこられたのがホテル。
そこで監禁状態。
誕生日にお見合いで、しかも相手に待たされて刻々と時間は過ぎていく。
他に予定もなかったからいいけれど、どうにも虚しさが心に立ち込めてくる。
『葉山酒造』の息子か。
写真も見ていない。
親が何度か「いい人がいるんだけど」と見せてこようとしたのをのらりくらりと交わしていたのだ。
それがまさかあの『葉山』だとは知らなかった。
確か、私より十歳上だったはず。
家が同じ地域内だから幼い頃から何かと噂は聞いているし、うちの祖母と葉山の祖母が同級生で親友だった。
それが趣味の短歌の会で一緒になって、なぜか孫同士をくっつけようと意気投合した。
有名酒造メーカーの御曹司がなぜしがない呉服店の娘と見合いさせることになるのだろう。
普通に考えたら引く手数多だろうに、何か問題があって嫁探しに困っているのだろうか。
こちらとしては端から断るつもりだったけど、こんな騙し討ちに合うならどんな顔かくらいは写真を見ておけばよかった。
脂ぎった太った男が来たらどうしようかと考えていたら、襖の向こうから「失礼いたしました。お連れ様、いらっしゃいました」と仲居さんの声がした。
さっと開いた襖に顔を向ける。