お見合い愛執婚~俺様御曹司に甘くとらわれました~
「すみません!遅れてしまいまして」
そう言って一歩部屋に踏み入れた男性は一礼してからにこやかに顔を上げた。
「葉山智哉と申します。よろしくお願いいたします」
私は言葉なくその男を見つめた。
驚いた。
思っていたよりも若い。私と同い年くらいに見える。
何よりその容姿の端麗さに目を見張った。
締まった輪郭に通った鼻筋と薄い唇。
二重の双眸は少し吊り目だが、きつさはなく意志の強さを感じさせる。
間違いなく美男だ。
さっきまでどんな風貌の男が来るのかと胡乱に思っていたが、反対に美しすぎるのも戸惑う。
「僕の顔に何か?」
しかも、あまりにも凝視しすぎていたら、相手に不信がられてしまった。
「い、いえ、私よりも十歳上だと……」
「ああ、それは兄ですね。僕は二十八歳です」
「そ、そうだったんですね」
あそこ、兄弟がいたのか。
聞いてないぞと母を見たら、今度は太ももを捻られて飛び上がりそうになった。
くだらないことを言うな。
母の目が私を睨んでいたから、大人しく口を閉じた。
「こちらこそお忙しい中、わざわざお時間頂いてありがとうございます。ほら、桜子ご挨拶して」
満面の笑みの母親から今度は『愛想良くしろ』と心の声が聞こえてくる。いや、多分、幻聴ではない。
「藤野桜子と申します。よろしくお願いします」
口元を無理矢理上げたら、見事引き攣っているのが自分でもわかった。