お見合い愛執婚~俺様御曹司に甘くとらわれました~
「風邪を引いただけ。だから、お土産はいいわ。持ってきてくれて申し訳ないけど」
咄嗟の嘘に騙されてくれればいい。
そんな願いを込めたけど、智哉は許さなかった。
俯いた視界に映るよく磨かれた革靴をカツカツと苛立たしげに二回鳴った。
「入れてくんないの?」
ワントーン下がった声に身体が強張った。
嘘をついているのも相まって罪悪感から私は逃げるように顔を背ける。
「ここまできた客人を門前払いするのか?」
「だ、駄目。風邪移る」
「大丈夫。俺、身体強いから早々移らないよっと!」
「わ!?」
いきなり智哉がドアノブをぐっと引いて、身体が前に持っていかれる。
上体を崩した私は玄関から一歩外へ。それを受け止めるように智哉が私を抱きしめた。
「ちょっ!?」
「何が風邪だ。こんなに目腫らして」
思わず上げてしまった顔をがっちりホールドされる。
何とか顔を背けたくて試みたけど、顎を捕らえている智哉の指は離れる気配もなく、私は視線だけでも横へと逃がした。
「は、離して」
「中入れてくれたらな」
「な、なんで……」
「このまま帰れっていうほうが消化不良なんだよ」
そっと目元を指でなぞられた。泣きはらした目元を見られてはもう言い逃れできない。
「ちょっと話してみな。じゃないと、帰らねぇぞ」
なんて傍若無人。
だけど、不思議と先程と違って優しく耳に響くから弱った心は抵抗する力も抜けていく。
私は迷った末小さく頷くと智哉を部屋の中へ通した。