お見合い愛執婚~俺様御曹司に甘くとらわれました~
「前に持っていく時に腰を入れて、そこで当てる」
説明しながらバッドの振り上げるところまで私の身体を誘導していく。
智哉の腰骨が脇腹に当たって言葉がうまく耳に入ってこない。
「わかった?」
二人でバッドを持ったままの体制で顔を覗き込まれた。
あまりの近さに息が止まる。
どれだけ憎たらしい口をきいても智哉の顔はやはり秀麗だ。
この体勢も相まって顔がぼっと熱を持つから慌てて下を向いた。
「わ、わかった!」
「じゃあ、やってみな」
手を解放されてようやく息ができた。
いきなり、接近しないでほしいわ。
こっちは久しく男との接触がない生活を送っているのだから、いきなりのボディタッチは心臓に悪い。
「お前、もうコインないだろ?」とかわりにコインを入れてくれる智哉に小さく礼を言って、バッターボックスで構えてみる。
腰を入れる。腰を……。
さっきのホームを脳内で一度イメージする。
何十回と見たスクリーンの投手の白と水色のユニホームが動く。
球が飛び出してくる穴を睨み据える。
マシンの音がして、飛び出してくる直前、無心でバッドを振りかぶった。