お見合い愛執婚~俺様御曹司に甘くとらわれました~
シュッと空気を切る音の後に手にガツンと響く感覚。
重い衝撃が腕に駆け抜けた後、目の前をボールが高く飛んでいく。
ネットに当たって落ちるそれを私は茫然と見つめていた。
「あ、当たった!」
あれだけ当たらなかったのに!
思わず飛び跳ねて振り返った。
智哉も驚きながらも嬉しそうに笑っていた。
あの少年のような無邪気な笑顔が不意打ちで来たからバッドを振り上げたままの恰好で固まる。
「やったな」
「う、うん」
「ほら、次来るぞ」
あわあわと前を向き直って、構える。
それから空振りすることは三度ほどあったけど、あとは全部当たって前へ大きく飛んでいった。
ひとつはもうちょっとでヒットの看板に当たりそうだった。
惜しかったな。
もう少しトライしたら当たるかとも思ったけれど、バッドを連続で振り続けて疲れが来ていた。
汗もじんわりと掻いて、熱さを逃がすためにシャツの襟元をパタパタと手で動かす。
「お疲れ」
ボックスから出たら智哉が缶ジュースを差し出してきた。
リンゴジュースだ。
みずみずしいリンゴの絵が描かれたそれを受け取ると火照った手の平に冷たさが伝導して気持ちいい。
「ありがとう」
「いえいえ、どういたしまして。疲れただろ?休憩しようぜ」
誘われるまま近くのベンチに腰を下ろす。
リンゴジュースのプルタブを開けて口をつけると乾いた喉にほどよいりんごの甘さが広がる。
智哉は隣で缶コーヒーのプルタブを開けた。