お見合い愛執婚~俺様御曹司に甘くとらわれました~
「スカッとした?」
「うん、まぁね」
無我夢中だった。仕事で理不尽な思いをしたのが同じ日だとは思えないほど遠く感じる。
智哉が連れだしてくれなかったら、今頃まだ家で腐っていただろう。
私は手の中のリンゴジュースに視線を落として逡巡していたが、やがて決意して顔を上げた。
「あ、ありがとう。なんかちょっとモヤモヤしてたのマシになったから……その……」
たどたどしくも誠意を込めて感謝する。強引なところはある。
俺様だし、口を開けば容赦ない言葉も出てくる。
だけど、大体は間違っていない。
ちゃんと筋を通しているし、思いやりも感じる。
ムカッとくることはあるけれど、この間から救われているのも事実だ。
素直に礼を言うと、智哉は私を見て数度瞬きをする。
驚いているのはきっと私がしおらしく礼を言う性格ではないからだ。
わかっているからこそ、柄にもないことをすると後から来る羞恥も半端ない。
思わず赤らんだ顔を下に向けたら、垂れ下がった再度の髪がなくなった。
智哉の長い指が私の髪を耳にかけたのだ。
そのまま頬を伝って輪郭に沿わされる指に顔をあげられる。
その先には智哉の顔がもう息のかかるところにあって吃驚した。